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東京地方裁判所 平成4年(ワ)2233号 判決

原告 高橋弘子

被告 多摩川芙蓉ハイツ管理組合

右代表者管理者 村上照雄

右訴訟代理人弁護士 藤川元

主文

一  本訴訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  共用部分の変更決議が存在しないことを確認する。

二  被告は共用部分の変更について原告の承諾を得る必要のあることを確認する。

第二事案の概要

本件は、多摩川芙蓉ハイツ(本件マンション)の区分所有者である原告が、本件マンション管理組合(被告)に対し、被告が後記の本件マンションの敷地の共用部分にあった旧駐車場を廃止し、同共用部分の別の場所に新駐車場を建設する計画(本件計画)は、「共用部分の変更」(区分所有法一七条一項)に該当すると共に、「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」(同法一七条二項)に該当するにもかかわらず、同法一七条一項の要求する被告の総会の決議、さらに右計画を具体化する被告の理事会の決議を経ず、かつ、同法一七条二項の要求する専有部分の所有者の承諾を得ていないとして、その決議の不存在の確認を求める(請求一)と共に、専有部分の所有者である原告の承諾を得る必要のあることの確認を求める(請求二)事案である。

一  争いのない事実

原告は本件マンションの区分所有者(四号棟八〇五号)、被告は本件マンションの管理組合で村上照雄がその理事長である。

二  争点

1(被告の総会又は理事会の決議の不存在確認の利益の有無)

(被告の主張)

本件において、被告の総会決議等の不存在の確認を求めても、具体的紛争の解決に役立つわけではなく、例えば、原告が旧駐車場に対し専用使用権を有することの確認等を求める等、端的に原告の権利の実現に有効・適切な請求をすべきであり、本訴は、確認の利益がない。

2(平成二年九月三〇日の第七期の被告の定期総会「七期総会」及び被告の第九期の理事会「九期理事会」の決議に違法な点があるか否か)

(原告の主張)

(1) 七期総会には、次のとおりの瑕疵がある。

①右総会の出席者は、七三人で、その内理事一八人、監事二人を除けば、五〇余人となり、議決権者数三九九人の一三パーセント程度に過ぎない。

②前記七期総会の招集通知の名宛人は、本件マンションの区分所有者でなく、居住者とされていた。

③また、本件マンションの区分所有者二九六人から被告に返送された総会の委任状(≪証拠省略≫)には、会議の目的が区分所有法一七条一項に該当する事項であること及び同条同項の議決を要する旨の記載がなく、議案ごとに賛否の別や、意見があれば意見を記載する欄が設けられておらず、委任事項について、いわば白紙委任の形式とされていた。

(2) 九期の理事会の決議には、次のとおりの瑕疵がある。

①被告の理事会の理事には、区分所有者しかなれないところ(本件管理組合規程四、一一、一八、二九条)、二〇人の理事中四人は区分所有者ではないものが含まれていた。

②住戸一戸につき共有者がいる場合に、共有者の中から理事になるには、予め理事長に届けをする必要があるところ(同規程一七条三項参照)、理事の中に共有者であるにもかかわらず、右届けをしていない者が八人いた。

3(本件計画が区分所有法一七条二項所定の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するか否か)

(原告の主張)

本件計画は、新駐車場が近くに建てられる原告の部屋のある本件マンション四号棟は現在ある避難道路を奪われ、駐車する車の騒音、排気ガスの被害を受け、本件マンション一、二、三号棟前には、旧駐車場がなくなり、憩いの広場(公園)ができ、四号棟前には新駐車場ができ、不公平である。

したがって、右計画は、区分所有法一七条二項所定の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、同項の要求する専有部分の所有者の承諾を要するところ、その承諾を得ていない。

(被告の主張)

本件計画が、原告の専有部分の使用にどのような特別の影響を及ぼすのか明らかでない。

第三争点に対する判断

一  前記争いのない事実、≪証拠省略≫並びに弁論の全趣旨から次の事実が認められる。

1  原告は、被告との間で、昭和五八年七月一六日、本件マンションの付属施設で本件マンションの一ないし三号棟の前の駐車場(旧駐車場)の一区画に駐車を目的とする賃貸借契約を締結し、以後駐車場として専有使用中である(≪証拠省略≫)。

2  被告の理事会は、平成二年九月一八日付け「第七期管理組合定期総会のお知らせ」と題する書面を本件マンションの居住者に配布した。右書面には、議案として駐車場増設工事案承認の件(第四号議案)、憩いの広場(仮称)造成工事案承認の件(第六号議案)等が掲げられ、かつ、その内容の概要の説明も記載され、出欠票及び委任状が添付されていた。右駐車場増設工事案は、一一一台しか駐車できない旧駐車場では車の収容能力が不足し、これを廃止して原告の居住する四号棟の近くに二二四台駐車できる自走式二段立体駐車場(新駐車場)を建設することを内容とし、憩いの広場(仮称)造成工事案は、旧駐車場の跡地を憩いの広場(仮称)として造成することを内容とするものである。なお、新駐車場の建設の承認の議案については、工事資金調達方法として修繕積立金から支出するということも含まれている(≪証拠省略≫)。

3  被告の七期総会は、平成二年九月三〇日に開催され、駐車場増設工事案承認の件(第四号議案)及び憩いの広場(仮称)造成工事案承認の件(第六号議案)等が議案として提出され、管理組合規程一八条一一項「敷地及び共用部分等の変更」に該当する事項として、同規程一九条三に基づき組合員総数及び議決権総数の各四分の三以上の多数で議決された(≪証拠省略≫)。

4  被告の九期理事会は、七期総会で議決された駐車場増設工事案及び憩いの広場(仮称)造成工事案の承認を受け、理事会の決議を経て、新駐車場について、平成三年八月建築確認申請をし、同年一二月一六日確認許可通知がされたため建築に着工して平成四年三月に完成し、原告以外は全員新駐車場を利用している(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)。

5  右七期総会の出席者は、七三人で、その内理事一八人、監事二人を除けば、五〇余人となり、議決権者数三九九人の一三パーセント程度であった。また、本件マンションの区分所有者二九六人から被告に返送された総会の委任状(≪証拠省略≫)には、議案ごとに賛否の別や、意見があれば意見を記載する欄が設けられておらず、前記3の議案が区分所有法一七条一項に該当する旨の記載もなく、委任事項についていわば白紙委任の形式とされていた。また、前記七期総会の招集通知の名宛人は、本件マンションの区分所有者でなく、居住者とされていた(≪証拠省略≫)。

6  被告の理事会の理事には、区分所有者しかなれないところ(本件管理組合規程四、一一、一八、二九条)、二〇人の理事中四人は区分所有者ではなく、区分所有者の夫が含まれていた(弁論の全趣旨、≪証拠省略≫)。また、住戸一戸につき共有者がいる場合に、共有者の中から理事になるには、予め理事長に届けをする必要があるところ(同規程一七条三項参照)、理事の中で共有者であるにもかかわず、右届けをしていない者が八人いた(≪証拠省略≫、弁論の全趣旨)。

二  争点1(被告の総会又は理事会の決議不存在確認の利益の有無)について検討する。

そこで、原告の本訴訴えの内、共用部分の変更決議不存在の確認を求める部分は、その決議の対象が必ずしも明らかでないが、本件計画の決議を対象とするものと解する他なく、さらに、本件計画を承認する被告の総会の決議が全くないことの確認を求めるのか、本件計画を承認する具体的な前記七期総会の決議に瑕疵があることの確認を求めるのか、本件計画を具体化する九期理事会の決議に瑕疵があることを求めるのか等は必ずしも明らかでない。しかし、原告の訴えが右のいずれであるにしろ、被告の総会の決議に関していえば、被告が本件計画について、区分所有法一七条一項の被告の総会の決議の不存在(もっとも、被告が右計画について同法一七条一項の要求する被告の総会の適法な決議を経ていることは後記のとおりである。)の確認を求めていると解する他ない。ところで、①決議の対象である新駐車場の建設については、右一の2のとおり、工事資金調達方法として修繕積立金から支出するという金銭の支出の承認という観念的な面も含まれているが、基本的には駐車場を建設するという事実行為の承認である、②本件計画をめぐる紛争の解決方法として、新駐車場の撤去を含め新駐車場そのものに変更を加えること、原告に対する金銭解決等幅が広く、予想も立てにくい、③管理組合は、区分所有者の自治の強い団体である、等の本件における諸事情を考えると、仮に本件計画について被告の総会の決議不存在確認の判決を得ても、結局、事実上、被告の本件計画が区分所有法上、違法という評価を受けるに過ぎず、既に完成した新駐車場の建築又は廃止された旧駐車場の使用をめぐる原告と被告との間の紛争の具体的解決に有効・適切であるとは考えられない。原告としては、自己の権利救済に直結する新駐車場の撤去、旧駐車場の原告の専用使用権の確認、新駐車場の建設による損害賠償等を求める訴えを起こすほかないというべきである。右の理由は、被告の理事会の決議についても同様であり、仮に本件計画について被告の理事会の決議不存在確認の判決を得ても、既に完成した新駐車場の建築又は廃止された旧駐車場の使用をめぐる原告と被告との間の紛争の具体的解決に有効・適切であるとは考えられない。

次に、共用部分の変更について区分所有法一七条二項の専有部分の所有者である原告の承諾を得る必要のあることの確認を求める訴えについても、前同様、その承諾の対象が必ずしも明らかでないが、本件計画を対象とするものと解する他ない。しかし、仮に右の確認判決を得ても、本件計画が、同法一七条二項の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、専有部分の所有者である原告の承諾を得る必要のある場合に該当するという単なる事実が確認されるにとどまり、前同様、原告と被告との紛争の具体的解決に有効・適切であるとは考えられない。

したがって、本件計画について被告の総会又は理事会の決議の不存在確認を求める訴えは、不適法であり、却下を免れない。

三  争点2(七期総会及び九期理事会の決議に違法な点があるか否か)について検討する。

右二により、争点2について判断する必要はないが、念のために、本争点について判断するに、右一の1ないし4のとおり、本件計画を承認ないし具体化するための七期総会及び九期理事会の決議が成立しており、右決議は、後記のとおり、手続的に、いずれも決議を無効とする程の瑕疵は見当たらず、適法というべきである。

1(被告の総会の決議について)

(1)  原告主張の(1)の①の事実は、右一の5から認められるが、管理組合の総会には委任による議決の制度が認められている以上、総会に現実に出席して議決権を行使した割合が右のとおりであったとしても違法とする理由とはならない。

したがって、この点に関する原告の請求は理由がない。

(2)  原告主張の(1)の②の事実は、前記一の5から認められ、総会の招集通知の名宛人として居住者とするのは、法律的に不正確といえるが、区分所有者の趣旨と理解することもでき、区分所有者でない居住者が議決権を行使したと認めるに足りる証拠もないので、右原告主張の事由も決議の瑕疵を招くようなものでもない。

(3)  原告主張の(1)の③の事実は、前記一の5から認めれ、なるほど、委任状には、原告主張のような記載がある方が議決権を委任する区分所有者の意思を反映しやすく、望ましいといえるが、原告主張のような記載がない委任状に基づく議決権の行使を違法とするまでの瑕疵に当たるということはできない。

したがって、これらの観点から被告の総会の決議が、手続上、違法ということはできない。

2(被告の理事会の決議について)

(1)  原告主張の(2)の①の事実は、右一の6のとおりであるが、他方、二〇人の理事中四人は区分所有者ではない者も、区分所有者と全く関係のないものではなく、区分所有者の夫であることからすると、理事中に区分所有者ではない者が含まれていたということも、それだけで直ちに理事会の運営、決議が違法性を帯びるとまでいえない。

(2)  原告主張の(2)の②の事実は、右一の6のとおりで、住戸一戸つき共有者がいる場合に共有者の中から理事になるには、予め理事長に届けをする必要があることは、原告主張のとおりであるが、共有者の中から複数の者が理事として、運営に当たり、議決権を行使した事実も認められないので、共有者が理事になるために所定の手続を踏んでいないからといって、右手続を踏んでいない者の加わった被告の理事会の運営が違法になるとはいえない。

したがって、これらの観点から被告の理事会の決議も、手続上、違法ということはできない。

四  争点3(駐車場の建設が区分所有法一七条二項所定の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するか否か)について検討する。

本争点についても、右二のとおり、本件訴えは確認の利益がないので、右の争点については判断の必要がないが、念のために判断する。

前記一の4のとおり新駐車場の建築について建築確認がされていること、同3及び4のとおり被告の総会で組合員総数及び議決権総数の各四分の三以上の多数で議決され、原告以外の居住者は全員既に完成した新駐車場を利用していること、同2のとおり旧駐車場は車の収容能力が不足していることから収容能力のより大きい駐車場の建設の必要性があり、新しい駐車場を建設する場合、マンションのどの棟及びどの部屋にとっても全く公平に建設場所を設定することは困難であること、公園の設置場所についても同様のことがいえること等を考えると、本件計画については、原告に不満が残るとしても、本件計画が区分所有法一七条二項所定の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するとは認められない。また、他に右事由に該当すると認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件計画が同法一七条二項所定の「共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当することを前提とする原告の主張も理由がない。

五(結論)

以上の次第で、原告の本訴訴えは、いずれも確認の利益がないので却下する。

(裁判官 宮﨑公男)

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